Story -ストーリー-

「月ちゃーん、おーみーやーげー。 おーい、娘よぉ、起っきれーい」
深夜3時過ぎに響きわたる大きな声。酔っ払ってご機嫌の母・陽子(大竹しのぶ)の帰宅。玄関を開けてと、娘の月子(宮﨑あおい)は叩き起こされる。
このこと自体は、そう珍しいことではない。しかし今日はいつもと違う。「おみやげ」が、見知らぬ男だったのだ。
「わたくし森井陽子は、昨夜、プロポーズされて・・・・・・お引き受けしました」
唖然とする月子。まさに寝耳に水。じわじわと怒りがこみ上げてくる。


まず、相手の見かけである。研二(桐谷健太)というその男、ダッサイ服を着て金髪でリーゼント、いったいどこの田舎のヤンキーなのか? 年齢、なんと30歳。 
何よりも腹立つのが、二人が3年も前から付き合っていたということ。
なんで、話してくれへんかったん? なんでそんな勝手なことすんのん!? 
これには、家族同然の付き合いをしてきた大家のサク(絵沢萠子)も、オカンの勤め先・村上医院の村上先生(國村隼)も唖然とするばかり。


月子は生まれる前に、父・カオルと死に別れていた。ずっと母と二人きり、仲良く暮らしてきたはずだった。オカンもずっと、「カオルさんが、最初で最後の人」。そういってたはずのに。
「おいしーい、この天ぷら! さすが研ちゃん元・板前〜」
目の前でオカンと金髪は熱々。
「なんでやねん!?」
納得のいかないまま、なし崩し的にはじまる同居。
「どこがいいの、あの男の!?」
たまりかねて、月子は聞いた。
「ヘラヘラ……してるところかな」
生まれてすぐ、彼の両親は事故で死んだ。養子に出されて、結構苦労したらしい。でも、そんなこと一切表に出さないで、いつもヘラヘラしてる。そんなところ。
日々を過ごすうち、研二の人柄の良さが、確かに月子にも伝わってくる。


ある日、オカンに呼ばれた。お願いがあるという。
「白無垢、着ていい?」
結婚式を白無垢で挙げるのが小さい頃からの夢だったと、恥ずかしそうにオカンがいう。
「やっぱアカンよなぁ、みっともないよなぁ」
冗談、冗談と母は照れるように言って、先に帰ってしまった。
次第に月子も、二人を祝福できる気持ちになりつつあった。ある日家に戻ると、研二が玄関まわりの掃除をしている。
「白無垢……どうぞって、お母さんに言うといて」
研ちゃんの顔は見ずに、そう伝えた。


「明日、月ちゃんと一緒に、電車に乗って、白無垢を選びに行きたいねん」
月子はこの1年、電車に乗れなかった。原因は、かつての会社の同僚に受けた執拗なストーカー被害。電車で待ち伏せされ、駅の駐輪場であわや暴行沙汰になりかけ、心に深い傷を負っていた。以来、電車に乗ろうとすると体がすくみ、パニックを起こしてしまうのだ。
「月ちゃん、あんたずーっとこのままでええの?この町から出られんと、それでええの?」
月子は、動揺した。
「分かってるって、そんなん!」
どうして急にそんなことを言い出すのか分からなかった。今まではずっと、無理しないで、急がないで治そう、そう言ってくれていたのに。
「邪魔に……なったんや。早よ結婚したいから、私のこと邪魔になったんや。絶対そうやわ。さっさと出てってほしいから、早よ二人きりになりたいから、せやからそんなこと言い出したんや!」
月子の頬にオカンの平手打ちが飛んだ。修羅場になった。


翌日、月子抜きで二人は衣裳合わせに行くはずだった。突然、オカンが倒れなければ。
緊急搬送され調べた結果は、貧血だった。ホッとしたのもつかの間、掛かりつけの先生が月子に、受け止めがたい事実を告げる。
――2ヶ月前に分かっていたことだけど、お母さんは末期のがんに蝕まれています。
誰にも言うつもりはなかった。
「死ぬから受け入れるん? そんなん、全然嬉しくない」
研二のことを受け入れてもらえなくても、結婚に反対されたままでも、最後まで普通に娘と生活していたかった。
その思いが、月子の胸に押し寄せる。


しばらく経って、駅に向かう月子とオカンの姿が見られた。白無垢の衣裳合わせに向かうのだ。苦しい胸の高鳴りをこらえて、電車に乗る月子。動き出した電車の中で、二人は抱き合って喜んだ。
そして、衣裳合わせ。
白無垢に身を包んだオカンが、三つ指をついて月子の前に座る。
「研ちゃんのこと、病気のこと、ずっと黙ってて、本当にすみませんでした」
 どうして言えなかったのか、その理由。そしてある「お願い」を、オカンは語りだした―――。