子猫の涙

父の本当の強さが、いまわかった。

日本ボクシング界、最後のメダリスト・森岡栄治。父の強さ、優しさ
切なさと愛に包まれたひとりのボクサーと娘の物語。

Introduction -イントロダクション-

東京タワーが夢の象徴だった頃を描いた『ALWAYS 三丁目の夕日』、オリンピックにわく東京が舞台の『地下鉄に乗って』に続く、人情味あふれる“昭和”の空気がスクリーンにあふれだす珠玉のヒューマン・ドラマがまたひとつ誕生した。

昭和43年、メキシコオリンピックのボクシングバンタム級で銅メダルを獲得した伝説のボクサー、森岡栄治。日本中を沸かせ、ボクシング最後のメダリストとなった彼の栄光と挫折の人生、そして彼を取り巻く家族との愛と絆を描いた『子猫の涙』。

オリンピック後にプロに転向するも、網膜はく離により引退。さまざまな職を経てジムを開き、第二の人生のリングでも波乱に満ちた日々を生きた栄治。仕事は長く続かず、喧嘩っ早くて女好き。そんな愛すべきダメ親父の姿が、正義感あふれるおてんばな娘・治子の視線で綴られている。『子猫の涙』はひとりのボクサーの真実お物語であり、父の思いを知り、受け止めることで成長していく少女の物語でもある。

「人生はなるようにしかなれへん」が口癖で、ボクシングジム建設中の上棟式の日、「世の中は皆のもの」「ガツガツがっつくな」といった言葉を書き残したという森岡栄治。破天荒だけれど決して欲深くはなく、どこか飄々としている。

そんな心の奥底に誇りを持った不器用な“昭和の親父”が、ナンバーワンを目指すことだけが人生ではないという負け犬の美学を、笑いと涙とともに伝える。

監督・脚本は森岡栄治の甥であり、これまで『鬼火』など数多くの脚本や、監督作『問題のない私たち』などで多才ぶりを発揮してきた森岡利行。主催する劇団ストレイドッグによる舞台『路地裏の優しい猫』を自ら映画化し、愛する叔父の一筋縄ではいかない人生を見事に描ききったこの作品は、日本映画エンジェル大賞を受賞、第20回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」にも公式出品されるなど、高い評価を得た。

監督からのオファーを快諾し、鍛えあげられた肉体で森岡栄治の十代から五十代までを演じたのは、ボクシングが趣味だという武田真治。ドラマ、映画、バラエティと幅広く活躍する多彩な俳優が、思わず手に汗握る迫真のボクシングシーン、そして子育てに戸惑う父親役にも挑戦し、まさに体当たりの熱演を見せている。物語の中心人物である娘には、元気いっぱいの関西弁が印象的な大阪出身の藤本七海。可愛らしいしたたかさと情の厚さをあわせ持つ栄治の愛人を演じるのは広末涼子。そのほか妻役の紺野まひる、栄治の兄を山崎邦正、そして姉を鈴木砂羽が演じるほか、喜味こいし、唐渡亮、黒川芽衣、宝生舞、赤井英和、など個性あふれる実力派俳優たちの豪華共演が、あたたかい物語を彩っている。