Introduction -プロダクションノート-

板尾創路が「脱獄王」になるまで

板尾創路が“脱獄”というフィールドへ踏み入れたのは、2008年の初夏だという。板尾の頭の中にはカンフーものや刑事ものといったアイデアもあったが、何度も考えた結果、やはりこのテーマしかない、と辿り着いた。脱獄を扱った作品には、洋画や海外ドラマにも傑作が多いが、「今の日本映画には脱獄を扱ったものがほとんどないし、脱獄映画にはエンターテインメントが凝縮されている。その中でドラマを描ききりたかった」と語る。そして、単なる脱獄モノというだけではなく、爽快感すら覚えるラストまでのストーリーの柱、骨格をオリジナルに組み立て、かねてから交流のある気鋭のディレクター、山口雄大と、吉本新喜劇の作・演出なども手がける俳優増本庄一郎とともに綿密なプロット作りに挑んで行ったと言う。それはまさに、板尾をネクスト・ステージへ引き上げ、「これまでからの脱却、すなわち俺が脱獄王になった」とも言える作業だったと板尾は語る。「脚本には時間がかかった。時代の検証もしっかりやったし、でもその分考えていた映画にほぼピッタリで、足りないこともカットしすぎることもなかった」と、計算どおりだったことも明かしている。


お笑い、俳優、作家、歌手 ———
様々な顔を持つ板尾創路だからこそ完成した100%★Itao★World!

所属する吉本興業の中でも独特のスタイルを持ち、クールな顔とシュールな芸風に似合わずド天然でミステリアス、数々の伝説を生んできた板尾創路には、お笑い以外に数々のクリエイター、エンターテイナーとしての顔がある。俳優としては、既に30本以上の映画に出演しており、09年には、是枝裕和監督の『空気人形』で堂々のカンヌ映画祭レッドカーペット登場も果たし、『ナイン・ソウルズ』で共演した原田芳雄からは「板尾は良すぎる」と手放しの賞賛を贈られたほか、演出家の松尾スズキをして自著の中で「圧倒的に芝居が上手い」と言わしめたほどだ。その他、エッセイストとして「板尾日記」(1-4、リトルモア刊)で累計15万部超えのスマッシュヒットをアッサリと飛ばすほか、「シンガー板尾」名義でCDもリリースしている。そんな多角的な視線を持つ板尾だからこそ、自らの手がける作品世界には過去の経験値も生かし、全力で取り組んだ。主人公が予想もし得ない場面で歌うシーンなどは、板尾ならではの真骨頂と言えよう。シュールな中に愛と切なさすら感じられる強烈なインパクトは、観る者の度肝を抜くに違いない。


こだわりと、スムースさ。絶妙なバランスで挑んだ撮影現場。

ロケ地には、脚本の空気感を自然に感じられるという理由で、歴史的な建築物が多数移築されている名古屋の「博物館明治村」内の「金沢監獄中央看守所・監房」などが使われた。板尾は特に“時代”を感じさせるビジュアルにこだわり、たとえばコンクリートの道路が少しでも映らないようにするなど、細部まで入念にシーンを作っていった。撮影現場には山口がクリエイティブディレクターとして入り、板尾の頭の中を具現化するために全面的にサポートした。俳優陣は、脚本段階からイメージしていたという名優國村隼をはじめ、板尾が信頼する理想のキャスティングだったため、ほとんどテイクを重ねることもなく、各々が的確な場を作りこんでいった。また今回の撮影で、山口はあらためて板尾の俳優としての力量を感じたという。奇をてらった芝居をするわけではないが、微妙なニュアンスも絶妙に表現できる板尾は、ベテランの役者にまさるとも劣らない存在感だった。そして、意志的な集中力と万全の体制で監督・主演として撮影に挑み、そのためスタッフたちもモチベーションを保ったまま最終日を迎えることが出来たという。現場の面々は板尾へのリスペクトのもと仕事をしているという自負があり、監督のためにスタッフが一丸となれた結果だ、と、山口は振り返る。