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今月のピックアップ・バックナンバー

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第51回「『大映70周年記念特集〜我が心の大映』第2回 今月のおススメ2作品『おとうと』と『高校生ブルース』」

先ずは11月25日〜11月28日まで公開する『おとうと』(’60)のご紹介。
この作品は、“銀残し現像”という特殊現像処理を世界で初めて商用化した作品です。“銀残し現像”とは、上映用プリントを作成するポジ現像の際に、通常除去する金属銀をあえて残して現像するという手法です。これは、「大正末期から昭和初期にかけての無風状態」の表現を追及した市川崑監督の製作意図を、名キャメラマンの宮川一夫が幾度も実験を重ね、たどり着いた手法と言われています。その甲斐あって、第14回カンヌ国際映画祭で“フランス映画高等技術委員会”から表彰されました。
幸田文の自伝的な同名小説を原作に、水木洋子が脚本、芥川也寸志が音楽を担当。これを公開当時のプレスで「どんなに愛し合っていても人間は孤独です。孤独を前提として、いたわり合って暮らしているから、その愛情が美しいのだと思います」と意気込みを述べた市川崑が監督を務めました。
大作家ながらも家計のやりくりに四苦八苦する父、身体を患い寝込みがちな母、きかん坊のくせに弱虫な弟・碧郎。その三人の面倒を見て家事を切り盛りするのが主人公・姉のげん。この姉と弟は、普段はののしり合いや取っ組み合いの喧嘩もしますが、陰気な雰囲気の家庭で肩を寄せ合って暮らしています。
碧郎は万引きや放校されるなど、不良行為が止みませんが、ある事件がきっかけで、げんは碧郎の優しさを知ります。しかし、碧郎の体は結核菌にむしばまれていました。碧郎の看病を通して、家族はお互いをいたわり合い、絆が強まっていきますが…。
姉のげんを岸恵子、弟・碧郎に作家・川口松太郎の長男である川口浩、大作家である父にこれまた作家・有島武郎の長男である森雅之、病気がちな母に田中絹代が演じています。この作品で、岸・森・田中は俳優部門で国内映画賞を受賞しました。
しかし、私はこの作品で一番心に残る演技をしたのは川口浩だと断言します。どこかに憎めなさを残すボンボンを演じさせたら、川口浩の右に出る者はいない、と言っても過言ではないほどです。
調子に乗って意気軒昂とするサマ、叱られてシュンとするサマ、そして反省するでもなくまた調子に乗るサマ、そしてそのループ。こうした役を演じても尚、憎みきれない可愛さを表現してしまう、川口の存在感! “生まれ育った環境”と言ってしまえばそれまでですが、それを演じきれる役者は川口浩を置いて他にいません。
今回の上映では「川口浩」に注目してご覧いただきたいのです。もちろん、“銀残し版”プリントでの上映になります。こちらの映像美は、是非スクリーンで体験していただきたいです。

続いてのご紹介は、11月29日〜12月1日まで公開する『高校生ブルース』(’70)。
こちらは公開当時のキャッチコピーで“思いっきりお腹を踏みつけて! 高校生がママになるなんて…”とあるように、かなり過激な作品です。本作を中学時代に観てしまった私は、長いトラウマ生活に入ることになります…。
柴田成人が高校2年の時に書いた小説「傷だらけの十六才」を原作に、増村保造の助監督を務めていた伊藤昌洋が脚本、帯盛迪彦が監督を担当、この作品で映画&主演デビューを果たした関根恵子(現・高橋惠子)が、まさに体当たりの演技で挑んで強烈な印象を与えました。
美子と昇は高校2年の同級生。ごく自然に愛し合い、自然な成り行きで肉体関係を持ってしまいますが、その先にある妊娠という厳粛な事実を招くことを知るには二人は幼すぎました。初めての経験でなす術を失った昇は窮地に追い込まれます。美子は、新しい生命の存在を実感しつつも、不確かな疑念が巻き起こってきます。
子どもをめぐってすれ違う二人。そして美子が下した決断が、冒頭のキャッチコピーになります。自分の行為に絶望し涙にくれる昇とは対照的に、美子は前向きに生きていく強い姿でラストを迎えます。このような作品を多感な中学時代に観てしまっては、そりゃ嫌でも心に残ってしまいます。とは言え、名作には違いありません。心臓の弱い方は予め胸を叩いてからご覧ください。

今月ご紹介した『おとうと』『高校生ブルース』の詳しい上映スケジュールはこちらでご確認ください。また、当社からそれぞれDVDを発売しています。
寒さが一段と厳しくなってまいりましたが、この2作品で心を温めるか、更に寒くさせてはいかがでしょうか。

おとうと

製作年:1960年

これは人間の魂のふるさとの物語です。
“家”というものは父性愛、母性愛、夫婦愛、姉弟愛で成り立っているといわれていますが、どんなに愛し合っていても人間は孤独です。孤独を前提として、いたわり合って暮らしているから、その愛情が美しいのだと思います。――市川崑(公開当時のプレスシートより)

高校生ブルース

製作年:1970年

当時15歳の関根恵子が初主演し、体当たりの演技で挑んだ話題作。