Introduction -イントロダクション-

リンチ・イヤーに放つ、
蟲惑的な難解さに満ちた21世紀型映画。

リンチ・イヤーに、ネクストレベルの新作が公開!
2007年は奇しくも、長編第1作『イレイザーヘッド』(77)から30年。アメリカでは4月3日に全世界を熱狂させ、TVドラマシリーズの概念を変えた『ツイン・ピークス』(90〜91)のセカンドシーズンのDVDがついに発売。日本でも6月から9月にかけて全話(序章+本編29話)のDVDがセル/レンタルされる。また、パリのカルティエ現代美術財団では3月3日から「the air is on fire」と題された新作を含む現代美術家リンチの一大回顧展が開催(5月27日まで)。会場は大いに賑わっていると聞く。そう。今年は世界的に「リンチ・イヤー」と言っても過言ではないのだ。

リンチの「内なる帝国」で、進んで迷子になる者が続出…..。
ハリウッド女優ニッキー・グレース(ローラ・ダーン)は未完のポーランド映画『47』のリメイク『暗い明日の空の上で』の主演で再起を狙うも、映画の展開とリンクするように、私生活でも相手役デヴォン・バーク(ジャスティン・セロー)と不倫をし、現実と映画の区別が付かなくなり、そして……。そう。南カリフォルニア州の地域名からタイトルを取ったと言われる『インランド・エンパイア』は、ハリウッドを見下ろす山道を題名にした『マルホランド・ドライブ』(01)と、ハリウッド・バビロンを再び描いたという意味でも対となる作品である。
しかし、リンチは本作を「A WOMAN IN TROUBLE」としか語らず。海外ではリンチが仕掛けた罠を必死で解こうとする者あり、理解を放棄してスクリーンに浮遊しようとする者あり。リンチの「内なる帝国」が病み付きとなったリピーターも数多く出現。その熱狂ぶりはアメリカからヨーロッパ、そして日本へと広がりつつある。

インランド・エンパイア インランド・エンパイア

ソニーのDVカムで、21世紀型の映画制作スタイルを確立。
主演兼コ・プロデューサーのローラ・ダーンは『ブルーベルベット』(86)、『ワイルド・アット・ハート』(90)にも増して、叫びまくる。脇はジェレミー・アイアンズ、ジャスティン・セロー、ハリー・ディーン・スタントン、ウィリアム・H・メイシー、ジュリア・オーモンド、マリー・スティンバーゲンダイアン・ラッド……と豪華なキャスティングで、リンチの人気が偲ばれる。ナオミ・ワッツ(声だけ)&ローラ・ハリングと『マルホランド・ドライブ』組も参加。元リンチの恋人ナスターシャ・キンスキーもカメオ出演。
耳の良さでは定評のあるリンチだけあって、本作のサウンドトラックも極めてクオリティが高い。ベック「ブラック・タンバリン」からリトル・エヴァ「ロコモーション」の意表を突いた使い方まで! 
最後に。特筆すべきは、リンチは本作をすべてDVカムコーダーSONY PD-150(家庭用モデルの業務用後継機)を使って撮影していること。『インランド・エンパイア』では、バジェットに左右されることなく、好きなものを好きな時期に好きなように取り、1本の映画にまとめる21世紀型の映画制作スタイルを確立した。結果、06年ベネチア映画祭「栄誉金獅子賞」、07年米映画批評家協会賞「実験的作品賞」を受賞となった。

インランド・エンパイア インランド・エンパイア